グループホームを事業承継する責任

永井 グループホームを運営するうえで、大切にしていたことはどのようなことでしょうか?

矢野 医者の立場から言えば、目いっぱい患者さんと向きあい、診るということでしょうか。単なる延命はしたくはありませんが、ご家族の前でほどほどの処置をすることは失礼ですよね。かつて総合病院に勤務していたときは特定の疾患だけを担当していました。何百人と診てきましたが、当時はいい薬もなく、ほとんどの方が亡くなってしまう。ただ何人かは回復されました。もうダメだと思ってから粘り強く治療を続け回復されたんです。普通の生活に戻られていった。もちろん、限度をわきまえますが、最後の最後まで諦めないのが僕の医療ですね。

永井 グループホームは医療をする場所というより、利用者さまが生活する場所だと思います。矢野先生におかれては医療側からしっかりサポートされてきたと思いますし、生活の面では、利用者さまのことを一番理解している現場スタッフの判断に任せるというお考えでされてきたと思います。

矢野 確かに、グループホームは家庭ですね。だから事業承継して、医療と生活(介護)の運営が分かれたことで、その辺りが明瞭になったと言えます。

永井 グループホームが生活の場であると考えると、今日香も明日香も庭が広く、外に対して開放的で気持ちのいい環境だなと感じました。「今日香には昔、立派なイングリッシュガーデンがあったんだよ」とスタッフや利用者さまから聞きました。

矢野 あれは私の趣味みたいなものですよ(笑)。地元の保育園児が散歩に来たり、町の秋祭りには地域の方にも開放し、屋台を出したり、演奏会をしたりしたこともありましたね。維持が大変でやめてしまいました。

グループホームが地域から求められる役割

永井 グループホームの役割として、地域に対して何ができるか常に考え続けなければいけません。地域に開くことで、多くの人に介護について理解していただいたり、介護で困っている方にさまざまな選択肢を提案したりと、気軽に相談できる場所になってほしいと考えます。矢野先生がイングリッシュガーデンでされていたことは、地域に開かれたグループホームを運営していたと言えそうですね。

矢野 僕もグループホームは地域の相談所であるべきだと思います。みなさん、介護で悩まれていますから。先日高齢の家族が亡くなりまして。これまで末期の人をたくさん診てきたから平気だと思っていたのですが、家族だとやはり感じ方が違いますね。コロナ禍であったためなかなか会えなかったのですが、末期ですから日に日に弱っていくんですね。ただ、介護の仕事をしている家族のひとりが、とても丁寧に対応してくれたのが救いでした。今さらですが、介護は、医療や看護とはまったくの別物だということを思い知らされました。